歴史を超えて続く「パンダ外交」の物語
1972年10月、日中友好の象徴として日本にやってきた2頭のパンダ、ランランとカンカン。
彼らの到来は、単なる動物の贈与に止まらず、日本と中国の外交関係を深める重要なイベントとして多くの人々に歓迎されました。
しかし、このエピソードの背景には、パンダが1930年代から中国の外交戦略において重要な役割を果たしてきたという歴史があります。
今回ご紹介する書籍『パンダ外交』(家永真幸著、講談社)は、そのパンダを軸に中国の近代外交史を読み解く一冊です。
パンダという特異な生物がどのようにして世界を魅了し、また国家の外交戦略として利用されてきたのか。
その一連の過程を、今一度紐解いてみます。
発見されるパンダ、国際的な存在に
パンダが初めて世界に知られるようになったのは、19世紀半ばのことでした。
あるフランス人宣教師によって「発見」されたパンダは、その珍しさと愛らしい姿で一躍注目を集めました。
その後、1929年に欧米人の探検家が初めてパンダを捕獲し、西欧への輸送ルートが確立され始めます。
こうした過程を経て、パンダは次第に国際的な存在となり、各国の動物園や研究機関がその魅力に引き込まれていくのです。
しかし、パンダの魅力はその外見だけにとどまりませんでした。
中国政府は、この魅力を外交的に活用し始めます。
パンダ贈与による外交策
第二章では、戦争と革命時代を迎えた中国がどのようにパンダを利用していたのかを掘り下げます。
日中戦争下の1941年、蒋介石の妻・宋美齢はパンダをアメリカに贈るという手段を取りました。
この行動は、アメリカとの友好関係を築くための巧みな懐柔策でした。
1949年に成立した中国共産党政権も、パンダの外交価値を見逃さず、国内外でその価値を最大限に活用しました。
特に、北京動物園におけるパンダ展示と、モスクワや北朝鮮への贈呈が、その外交的効果を象徴しています。
冷戦時代のパンダ外交の位置付け
冷戦時代において、中国はパンダを通じて友好国との関係を深め、また広げていきます。
この時代には、ロンドンでのパンダ展示が非常に注目され、西側諸国との関係向上にも寄与しました。
パンダは、冷戦の緊張感を和らげる柔らかい外交手段として活用され続けました。
特に、動物園におけるパンダの獲得競争は、世界各国の焦点となり、パンダが単なる動物以上の存在であることを示しました。
さらに、本書はパンダ外交を通して、中国が如何にしてソフトパワーを強化していったかを詳述しています。
日本にやってきたパンダとその影響
日本におけるパンダブームは、ランランとカンカンの来日より前に始まりました。
1970年創刊の『anan』誌でパンダがマスコットとして登場。
さらに、1971年には昭和天皇がロンドン動物園のパンダと対面し、この様子が報道されました。
この報道が日本国内でのパンダ熱を筋道整え、パンダの来日が一層待ち望まれるようになるきっかけとなります。
1972年に実現したパンダの来日は、日中国交正常化を彩る重要なイベントとして、日本国内で大きな話題を呼びました。
両国間の交流を深め、パンダという外交的象徴が市民の心をとらえた瞬間でした。
パンダがもたらす経済的影響
第五章で取り上げられるのは、パンダがいかに中国の外貨獲得の手段として利用されたかという点です。
国際的な人気を博したパンダは、中国の経済成長の一翼を担いました。
動物園や研究機関への貸与を通じて、莫大な収入が生まれる場面は多くの国々で見受けられました。
こうした背景には、パンダが持つ生態学的な価値や、その保護の重要性についての認識の向上が挙げられます。
環境保護の観点からも、パンダの価値が再評価される中で、中国は国際社会においてパンダの貸与を通じて大きな経済的利益を享受しました。
パンダが代表する中国の姿
最後に、パンダがどのようにして中国を国際社会に代表する存在となったかが語られます。
パンダは、単に動物としてではなく、国家の象徴として利用されています。
近年では、一帯一路構想の推進においても、パンダが特定の国々への贈呈や貸与を通じて関係を強化する道具となっています。
さらに、北京五輪では、パンダのキャラクターが採用され、再びその役割が強調されました。
このように、中国の外交戦略において、パンダはますます巧みに利用され続けています。
『パンダ外交』は、パンダを通じて描かれる異色の近代外交史として、私たちに新たな視点を提供します。
まとめ
パンダを主人公に据えて描かれた中国の近代外交史は、動物と政治がいかに密接に絡み合ってきたかを如実に物語っています。
『パンダ外交』は、パンダに対する単なる愛着を超えて、その背後にある戦略や国際関係を深く理解することができる一冊です。
このレビューを通じて、パンダがどのようにして100年以上にわたり政治的利用されてきたか、その豊かな歴史をご紹介いたしました。
興味を持った方は、ぜひ実際に本書を手に取ってみてください。
家永真幸氏の緻密な分析と豊かな資料を通じて、さらに深い知識と発見が待っています。