「がん死こそ穏やかな最期?久坂部羊が語る『人はどう死ぬのか』で学ぶ新しい終末医療のあり方」

現代社会における「死」は、あまり語られることのないテーマです。

しかしながら、避けて通れないこの現実に対峙することは、誰もがいつか迎えるであろう終末の準備にもつながります。

著者である久坂部羊氏の著作『人はどう死ぬのか』は、がん死を通じて、人間の終焉の在り方を探る深遠なテーマを取り扱っています。

この作品は、長年にわたり外科医として活躍してきた著者の豊富な経験を基に、その目指すべき「良い死」への考察を展開するものです。

ホスピス医が見た「がん死」の現実

久坂部氏は、がん拠点病院での外科医としての経験を経て、ホスピス医として末期がん患者たちとの深い関わりを持っていました。

彼の視点から見ると、多くの人が忌避しがちな「がん死」は、避けるべきものではなく、むしろ人間にとって自然で穏やかな終焉の形かもしれないと考えます。

がん死とは、しばしば病状の進行がゆっくりで、患者自身が最期の時間を家族や友人と過ごす時間を持つことができ、心の準備を整える猶予が与えられることが多い点において、突如として命を奪う疾患とは異なる特質を持っています。

彼が著書で紹介する25の「がんで死ぬ」実例は、単なる医学的知見に留まらず、一人ひとりの患者の人生や最期の時間の過ごし方のなかに見出される美しさや、そこに関わる周囲の人々の姿にまで言及され、人間の生死観を問い直すものとなっています。

がん患者と向き合う医師の思い

医療は進化を続け、懸命な治療が施される一方で、果たしてそのすべてが患者の幸福に繋がるものなのでしょうか。

久坂部氏は医療の過剰な介入に疑問を呈します。

自身もがん撲滅を目指して邁進し、多くの手術と抗がん剤治療に従事してきた一人として、また、ホスピスという終末期医療の現場で見届けてきたからこそ、医療行為が時に患者自身の負担や苦痛と化すという現実を伝えます。

彼の意見では、がん死は自然な「死」の一つの形であり、必要以上に恐れることは無いと多くの事例をもとに示すことにより、読者にがん死や終末期医療に対する新たな視点を提示しています。

日常の中で多忙に過ごしていると、自分自身の最期について考える機会は少ないですが、この著書を通じて、改めて自分の人生をどう生きるか、そしてどのように死を迎えるかを考えさせられるでしょう。

著者が辿った個人的なお別れ

本書では、著者自身の個人的な体験についても率直に述べられています。

久坂部氏の愛妻ががんで最期を迎えるなか、その最期の様子を赤裸々に綴ることで、がん死がもたらす現実をより身近なものとして読者に伝えています。

これは、一部の読者にとっては心に重く響く内容かもしれません。

しかしながら、愛する人を看取るという重さと尊さ、そしてその後に続く深い静寂の時間を、がん死という視点から考えることで、彼女との関係や彼自身の感情の振れ幅を丹念に描き出しているのです。

この告白は、単に医師としての視点を超えた、著者自身の個人的な思いが込められたものであり、その痛みと同時に、穏やかで心温まる最期の瞬間があったことをも読者に教えています。

未来への指針としてのがん死分析

『人はどう死ぬのか』は、単に死を見つめるだけの書ではありません。

この作品を通じて、久坂部氏は未来における終末医療のあり方を別角度から考える契機を提供します。

医療技術の進化により、より長く生きることが可能になった今日において、果たしてその延命は誰のためなのか、私たちは何を以て「良い死」を定義するのかを問いかけるものです。

彼はがん死の分析を通して、がん患者がどのようにして自身の人生を締めくくり、またその後遺された人々がどうそれを受け入れるべきか、具体的な「良い死」の在り方を提唱しています。

この考え方は多くの読者にとって、死に関する恐怖心を和らげ、自分自身の最期に向けた準備や意識改革につながるでしょう。

がんへの対抗心と安らぎの選択

がんを憎むことは容易ですが、それをどのように受け入れ、そしてその先に続く道を選ぶかが本書の主題の一つでもあります。

がんへの対抗心を持ちながらも、最終的に安らぎを選ぶことを示しています。

この選択は簡単に行えるものではなく、多くの悩みや葛藤を含むものです。

しかしながら、それぞれの患者が自らの人生を納得し、心穏やかに余生を過ごすことを選択できるための準備と意識を持つことができるよう、本書は広く読者に語りかけます。

病と戦うだけではなく、時にはその先に安寧を見いだすことも重要だと、著者は提示するのです。

まとめ: 『人はどう死ぬのか』が語るもの

『人はどう死ぬのか』は医師であり、家庭人でもある久坂部羊氏が描いた、今日を生きるすべての人に向けた一冊です。

がん死という大きなテーマを通じて、現代の医療に対する問いを投げかけつつも、人間がどのようにして自らの死に向き合うかについて深く考えさせます。

がんという決して明るい色を持たないテーマを扱いつつも、最期の瞬間を心安らかに迎えるための考察が、読者に多くの気づきと、勇気を与えることでしょう。

ぜひ、多くの方がこの本を手に取り、自身の人生における「良い死」に向けた思索の手助けとすることを願っています。